ここでは、このサイトの対象者・目的・扱う内容などについて説明します。


※このサイトは、英語ディベート経験者という、かなり特殊な層の人間を対象としています。サイトの活用には、ある程度の基礎知識が前提となるので、「ディベートって何?」という方は、まず姉妹サイトである「Falcons Library」を参照して下さい。

 Debate Free Port は、アメリカで主流となっているNDTスタイルの英語ディベートを、純粋な形で、より深く日本に紹介することを目的として作られました。

 現在の日本のAcademic Debateの教育環境は、お世辞にも満足なものであるとは言えません。慢性的な人手不足から、各サークルにおける理論的な指導は、毎年チーフを含めた実質1〜2人で行われているのが現状であり、一度なにかの拍子にこの伝承のサイクルが狂ってしまうと、かつての強豪校が一気に弱体化し、そのまま消滅してしまう、というケースが少なからず存在します。

 もちろん、NAFAなどの団体もこうした問題は認識しており、指導者不足を補うため、毎年ピースコ派遣・セミナーを通じて、理論の普及・維持をはかっています。しかしながら、ごく一部のいわゆる大御所の方々を除き、(自分も含め)講師陣のほとんどは「教育者」としての経験が浅いため、ともすると必要な内容を十分に伝えきれなかったり、「わかりにくい」との評判を受けることもしばしばです。加えて、高いレベルの理論まで扱った日本語の文献がほとんどなく、各サークルでの教育は、代々「口うつし」で行われていることから、いつしかサークルによって誤った理論・考え方が「常識」として受け継がれてしまうことも多く、こうした歪みも、せっかくやる気を持って取り組んでくれている後輩の健全な成長を妨げてしまっています。きちんとした教材が少ないため、学びたくても、あるいは教えたくても、何をどうすればいいのか、というところからわからない。

 状況を改善するには、サークルの教育環境が整っていなくても、努力次第で理論をきちんと習得できる、自習用の優れた教材が必要です。自分はかつて、同様の目的のために「Falcons Library」という日本語のマニュアルを集めたサイトを立ち上げましたが、残念ながらここで配布している教材は数も少なく、理論的にカバーしている範囲が狭い上、なにより「教材」としての完成度に問題がありました。かといって、今の人手不足の状況では、日本人学生の手だけで体系的なテキストを新たに開発するには、あまりに時間と手間がかかりすぎます(山中礼二氏が残したテキストは非常に優秀なのですが、いかんせん手書きです。蟹池氏の現代ディベート通論は、絶版されて手に入りません。そして残念なことに、実力の低下が叫ばれて久しい今の学生指導者(私も含む)の力では、初〜中級者向けの入門書程度なら作れても、理論の深みを極めた体系的なマニュアルを作れるかどうかは、かなり怪しいものがあります)。

 こうして行き着いたのが、世界最大のディベート・サイトである「Debate Central」です。NDTの本場アメリカでは、ディベートの教育を専門の1つとする教授が何人も存在し、何十年もかけて練られてきた体系的な指導法・教材がすでに存在します。同サイトの管理人であるSnider氏も、ディベート教育を専門とする教授の一人ですが、ありがたいことに、同氏は自分が開発・収集した厖大な教材の一部を、遠隔地でも利用できるよう、ネット上で無償で公開しています。

 同サイトのトップページには

Debate Centralは、あらゆるレベル、あらゆる言語、世界中のあらゆる場所でのディベート活動を支援するために作られました。教育のため、ここにある教材は自由に利用できます。教師、市民、学生の皆さんは、非営利的な教育目的に限り、これらの教材をコピーすることができます。

との理念が掲げられており、この中には当然、私たち日本の学生も含まれます。こうして無償で公開されている素晴らしい教材を、活用しない手はないわけです。

 もちろん、こうした「ディベーターのためのすごいサイトがある」という事実は、日本でも広く知られていますし、この文章を読んでいる皆さんも、「俺だってDebate Centralくらい見たことあるぞ」と思われるでしょう。しかし、残念なことに、ほとんどの現役生・学生指導者は存在を知っているだけで、実際にその中にあるテキストを真面目に読んだり、レクチャーの映像を見たりしたことはないのが現状です。それはなぜなのか。

 Debate Centralには、日本人が利用しにくい、いくつかの問題があります。

 ひとつは、サイトのレイアウト・検索機能が貧弱だ、という点。同サイトは厖大な量の情報を抱えているものの、デザインのまずさから、どこに何があるのかわからず、なかなか目的の情報までたどりつけないことが多々あります。情報というのは、ストックしてあるだけではだめで、他人が必要としたときに、すぐに取り出せるような形できちんと整理されていなければ、著しくその利用価値が下がってしまいます。せっかくいい教材がそろっているのに、これではあまりに勿体ない。

 もうひとつは、当たり前のようですが、サイトの内容が全て英語で書かれている、という点です。私たちは英語ディベートをやっているわけですから、その気になれば英語くらい読めて当然です。読めて当然なのですが、やはり母国語である日本語で書かれた文章の方が、圧倒的に頭に入りやすいのは言うまでもありません。Debate Centralは、その厖大な情報量ゆえに、英語のタイトルを片っ端から見ているだけで途中で嫌になってしまうことが多く、これがサイト内の情報の把握を妨げています。マニュアル本体やビデオの内容は英語のままでも、そこに行き着くまでに必要なタイトル・目次・解説が日本語になるだけで、随分とっつきやすくなるのではないか。加えて、特に有用と思われるテキストについては、本文そのものを日本語に翻訳できれば、敷居は一気に下がることになります。

 このサイト「Debate Free Port」では、Debate Centralの許可の下、こうした問題の解決を念頭に置きながら、同サイトのNDTに関するコンテンツを、翻訳・解説・整理して公開しています。

 もちろん、このサイトに載せてある情報を、すべて鵜呑みにするのは考え物です。たとえば、Debate Centralには「クリティーク [Critique] 」をはじめ、日本でまだ普及していないタイプのセオリーの解説がたくさん載っています。ただ、日本でその議論が受け入れられていないということは、やはりそれなりの「納得しがたい」あるいは「わかりにくい」要素があるわけで、アメリカのディベーターと同じスピーチをしてジャッジに取って貰えなかったとしても、それはジャッジが悪いのではなく、あなたの説得の方法がまずかったと考えなければなりません。どの程度の論証でジャッジが納得するかどうかの水準は、おそらくコミュニティの文化・パラダイムによって全く異なるので(たとえば、比較的一般人を意識した日本語の大会で、NAFA系大会の感覚のトピカリティを出しても白い目で見られるように)、新しいタイプの議論・価値観の輸入については、ディベーターお得意の「批判的視点」から議論を深めつつ、時間をかけて徐々に消化・吸収していくべきものでしょう。そしてもちろん、こうしたセオリーの深い話に入る前に、すべての基礎であるロジックやNet Issue [肯定側・否定側のAD/DAを比べる] の理論をしっかりと身につけておく必要があることは言うまでもありません。

 いずれにしても、こうした外部の刺激によって新たな視点を得ながら、次の世代の素晴らしい選手・優秀な指導者が育ってくれることを切に願っています。特に、今年の2年生・1年生、そして高校生には、これまでになく面白い人たちがそろっていると信じています。このサイトが、皆さんが次の時代を自らの力で切り開いていく一助となり、そして10年後のディベート界に少しでも良い影響を与えることができるなら、これに勝る喜びはありません。




※翻訳作業への協力のお願い


 このサイトでは、今後も少しずつ、Debate Centralのコンテンツの翻訳を続けていく予定です。このサイトを立ち上げるまでの段階で、各記事のタイトルの翻訳はほぼ全て完了しましたが、現在翻訳中のテキスト「Code of the Debater」は、PDFにすると130ページ近くにもなる膨大なものなので、自分一人の限られた時間と能力のなかでは、完成するまでにかなりの時間がかかってしまうことが予想されます。

 ついては、もし「翻訳作業を手伝ってもいい」という方がいれば、管理人の関(support@misudo.com)までメールをいただければ幸いです(あるいは、「翻訳の作業場」の内容を参考に、かってに作業を進めていただいても構いません)。プレパで必死になっているパンツに手伝わせてしまうのは流石に申し訳ないので、特に、現役を引退した学生の方にお願いできると助かります(このページは誰の担当、とかそういうお願いの仕方になるかと思います。もちろん、その部分に関しては担当者名を明記します)。

※なお、Debate Centralの内容がすべてボランティアで提供されており、「非営利・無償公開・転載可」となっている関係上、翻訳していただいた内容も「非営利・無償公開・転載可」の扱いになります。翻訳した内容は、個人的に別のところで再配布・流用していただいて全く構わないのですが、著作権の独占は主張できませんし、おそらくこのサイト上でも整理して公開させていただくことになるはずです。申し訳ないのですが、この点はあらかじめご了承下さい。

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